「詩季ちゃんに、プレゼントがあるんだけど……受け取ってくれる?」

ふわりと微笑むその笑顔に、わたしは胸を高鳴らせながら頷く。

「じゃあ……見てて」

そう言った京介くんは、セットの中に置いてあったキャンドルに火を灯し、スタジオの照明をパチンと落とした。

静かで、そして少し大人の雰囲気の流れる室内。

シェーカーとミキシンググラス、いくつかの道具が目の前に置かれる。

並べられているお酒の入ったボトルも、全て本物が使われていのだと、小道具さんが言っていた。

彼はその中から、キレイなホットピンクのラベルのボトルを手にし、まるで何かの調合をしているかのように手馴れた仕草でシェーカーに注いでいく。

その顔が、とても真剣で。

まっすぐに手元を見つめる瞳に、わたしの心は揺さぶられていく。

カチャ。

シェーカーの蓋を締めた京介くんがゆっくりとそれを顔の横に持ち上げ、ふたりの視線が静かに交わる。

トクンとわたしの心臓が音を立てるのを合図に、彼の手がキレイな弧を描いて、シャカシャカと軽やかな音が響き渡った。


「はい……どうぞ」

それは先ほど撮影した、ドラマのワンシーンのように、京介くんはわたしの前にそっとグラスを置いた。

赤みの強いピンク色の、キラキラとキャンドルの灯を受けて輝くカクテル。

わたしはドキドキしながら、それを手に取った。

初めて踏み込む、大人の世界。

大人の味。

そっとグラスの縁に唇を触れると、わたしはそれをひと口、口に含んだ。

甘くて、濃厚な、ふわりと身体を熱くする、彼がくれるキスのような。

そんな味だった。

「20歳、おめでとう」

優しい笑みがわたしを見つめていて、わたしは身体の中から熱くなっていくのを感じる。

「……ありがとう……」

微笑みを返したわたしに、ハッとしたような表情を一瞬浮かべて視線を落とす京介くん。

「ドラマの役作りで練習したんだけど……ちゃんと出すのはこれが初めてなんだ」

「そう……だったの?」

「詩季ちゃんにこれを出してあげたくて。俺の初めてを、君の初めてに……」

コト。

わたしの前に置かれたグラスをそっと持ち上げて、彼はそれを自分の口に近づける。

傾けられたグラスから、ピンク色のカクテルが彼の唇を濡らしていく。

そして。

「んっ……!」

スッと目の前に彼の顔が近づけられたと思った瞬間、唇を奪われた。

薄く開かれた唇の隙間から、甘い何かが口の中に流れ込んでくる。

それが、彼が今口にしたカクテルの味だということを知る前に、わたしの意識はかすみがかり、身体から力が抜け落ちていく。

お酒に酔っているのか。

それとも本当に、彼のキスに酔ってしまったのか。

20歳の誕生日。

それは、彼の甘い甘い、キスの味だった。


――End.



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