すると。

グイッ。

「……えっ?」

宙に浮いたままのわたしの手が、突然強い力で引っ張られた。

そのまま彼に折り重なるようにわたしはソファへと倒れ込む。

(あ……)

状況を理解して顔を上げると、亮太くんの大きな栗色の瞳が、まつ毛がくっつきそうなくらい近くにあった。

「亮太……くん……」

「……詩季ちゃん」

外に出た時とは違う、少し低いかすれた声。

その声とわたしを見つめる瞳に、胸が揺さぶられる。

「起きてた、の?」

辛うじてそう声を押し出すと、彼はフワッと口元に笑みを浮かべた。

「お姫様のキスで目覚めたんだよ」

「あ……」

恥ずかしさに思わず目を逸らした瞬間、わたしの唇はやわらかな温もりに包まれた。

(んっ……)

唇から伝わる彼の体温と、わたしを優しく抱きしめる腕。

それに促されるように、わたしはゆっくりと目を閉じた。

「……今日は、帰さないよ」

わずかに離された唇が小さくささやく。

意地悪な響きを帯びているのに、口づけは甘く優しい。

そして背中に回った腕は、離したくないと言うように、わたしを強く強く抱きしめた。

「……うん」

彼は、まだ怖いのかも知れない。

人に自分を見せることが。

怖くて、そして寂しいのかもしれない。

もしもわたしが側にいることで、その寂しさを埋められるのなら。

「詩季……」


――End.



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