「……俺も同じ」

「え?」

「一緒にいると、力が抜けるって言うか……無理しなくていいかなって思えるから……」

「義人くん……?」

彼の声音が、ほんの少し、元気なさげにわたしの耳に届く。

わたしは思わずもたれていた頭を離して、彼の顔を見つめた。

「この世界で頑張ろうって決めたけど……やっぱり疲れることもあるんだ。今までは……いつ辞めようかって、逃げ道があったけど。今は頑張らなきゃって思う時が多くて……」

伏せられた長いまつ毛がかすかに揺れるその頬に、わたしは無意識に手を伸ばしていた。

「……無理しなくていいよ。無理に頑張らなくて」

「詩季ちゃん……」

「義人くんは、義人くんらしくしていていいと思う。少しずつ、頑張ればいいよ……わたしは、どんな義人くんでも、好きだから」

グイッ。

力強い腕に引き寄せられて、気がつくとわたしの胸元に義人くんの顔が埋められていた。

「義人く……」

「ありがとう。こんな俺の側にいてくれて……」

「こんな、じゃないよ」

「……ごめん」

「ふふ。義人くんの悪い癖」

ゆっくりと義人くんが顔を上げて、わたしを見つめる。

間近にあるその瞳が、あまりにもまっすぐで、夕陽を受けてまぶしくて、わたしは息を飲んだ。

「……帰ろうか」

スッと立ち上がった義人くんがわたしに差し出してくれた手。

大きくて、温かくて、わたしの手をすっぽりと覆ってしまう。

さりげなく繋がれた手から、彼の優しさが伝わってくる気がした。

わたしが義人くんの支えに少しでもなれているのなら、わたしはずっと側にいて、この手を離さないでいよう。

キュッと手を握り返して、隣を歩く彼の横顔を盗み見ると、その頬がかすかに染まっていた。


――End.



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