『アイツのことだから家にこもってばかりで、詩季ちゃんのこと、デートにも連れて行ってあげてないんじゃない?』
その時わたしは、それが義人くんにとって一番リラックスできることなら、わたしはそっちの方が嬉しいと答えた。
「わたしは我慢なんて、してないよ。だって……一緒に居られるだけで嬉しいから」
そう答えて、わたしはそっと彼の肩にもたれる。
「わたしは義人くんと、ゆっくり過ごす時間が好きだから……それにこうして、ステキな場所に連れて来てくれたでしょ?」
「詩季ちゃん……ありがとう」
そうつぶやいたやわらかな彼のまなざしが、わたしの心を包んでくれる。
普段、朝も昼も夜もない、時間に追われる仕事をしているせいか、こんなにのんびりと時間の流れを感じられることが、何だかとても貴重で。
何よりも、その貴重な時間を彼と過ごせることが、わたしには幸せだった。
「ありがとう……ここに連れて来てくれて」
他に何をするでもなく、ただ彼に寄り添っていられること。
それが一番、わたしには大切。
フワッと空気が揺れる気配がして、顔を上げると……
「……あ」
近づいてきた彼の顔に、わたしは自然と目を閉じた。
(ん……)
唇に触れる、やさしい温もり。
大きくて優しい手がわたしの髪を撫でる。
「詩季……」
唇の隙間から小さく漏れる、わたしの名前に、胸がギュッと掴まれたような感覚になった。
苦しいくらいに、切なくなるくらいに、義人くんのことが好き。
サワサワと、秋の心地よい風がわたしたちを包み、風に揺れる木の葉がふたりの姿をそっと隠してくれる。
木洩れ日の中で、わたしたちは口づけを交わした。
「……詩季……」
「……ん……?」
ふわふわとやわらかな日射しと、トクントクンと鳴る穏やかな鼓動。
ゆるやかに意識が浮上してきて目を開けると、わたしは義人くんの肩にもたれて眠っていたことに気づいた。
「あっ」
小さく声をあげて、慌てて飛び起きる。
すると、ハハッと隣で笑う声がした。
「いいよ。そんなに慌てなくて」
フワッと表情を崩した彼の腕が伸びてきて、わたしの頭を抱き寄せる。
太陽は西の空に傾き始めていた。
「ごめんね……知らない間に眠っちゃって」
「気にしなくていいよ。最近、忙しかったみたいだし」
「うん。ありがとう。……義人くんと一緒にいると、つい気がゆるんじゃって」
彼の腕に促されるままに、頭をもたれ掛けると、心地よい温もりに包まれる。
ふんわりと、秋の夕陽があたたかい。