「ど、どうかな……?」

「……ああ」

春に頼まれて、わたしはその場でドレスに着替えることになり。

今わたしは、彼が新曲のために選んでくれたドレスに身を包んでいる。

フッと一瞬笑みを浮かべてわたしの前に立った彼は、ゆっくりと身体を屈めて。

「あっ」

露わになったわたしのうなじに唇を寄せる。

チュッという音と共に、わたしの声がスタジオに反響して。

カアッと身体に一気に熱が走り抜けた。

「キレイだ……このドレスも……その声も……」

「は、春……」

首もとに触れる吐息がわたしの耳も、鼓動も、思考までをも奪っていく。

無意識に期待してしまっていたのだろうか。

熱くなったわたしの身体とは反対に、春はゆっくりと姿勢を戻す。

そしてもう一度わたしの姿を眺めた後、口を開いた。

「……いや。やはり、やめよう。キミのこの姿を……他の男には見せたくない。特に……」

「え……?特に……?」

「……冬馬には」

スッと、伸びて来た指先がわたしの頬をなぞって。

あごから鎖骨、肩からまた鎖骨へ戻り。

胸元へと、ツウッと流れるように線を描いていく。

「あっ。春……ダメ、だよ……」

背中を駆け巡る感覚に、わたしは思わず彼の身体を押し返す。

けれどわたしの手は優しく捕まれて、抵抗することも、身動きすら取れなくなる。

「俺は……自分で思っている以上に、キミを……独占したいらしい」

射るように強い眼差しがわたしの瞳の奥を見つめていて。

冷めてきていた身体の熱が、再び上がっていくのが分かる。

「詩季……」

赤みを帯びてきたわたしの肌に、春はそっとキスを落とす。

何度も、何度も。

そしてわたしの全てを溶かしていくのだった。


――End.



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