「詩季ちゃん。今日……これから仕事?」
対談が無事に終わって、帰り支度をしていたわたしに義人くんが声をかける。
「ううん。今日はこれで終わりなの」
そう答えると、彼はホッとしたように表情を緩めて、外を指差す。
「一緒に帰ろう。寄り道しながら……良かったら」
撮影の行われたカフェで、テイクアウトのカフェオレを買って。
わたしたちは近くにある緑地公園にやって来ていた。
正に快晴という、高く澄み渡った青空がまぶしい。
キラキラと光る太陽も、吹き抜けていく風も、もう夏の装いをしている。
気温が上がって来たのか、ワンピースの上に羽織って来たジャケットが暑くて。
わたしはそれを脱いでベンチに置いた。
「……気持ちいい」
カラリ。
カフェオレの中の氷が崩れてぶつかる音が心地よく感じて。
同時に夏祭りを思い起こさせる。
「……詩季ちゃん」
サラリと髪をなでる風に身を任せるように目を閉じた時。
フワッと横から肩を抱き寄せられた。
「義人くん……?」
突然のことで少し驚いて目を開けると。
ほんのりと赤く染まった頬で、義人くんがわたしを見下ろしている。
「その格好……俺以外に見せたらダメだよ」
「え……?」
「心配に、なるから……」
そうつぶやいて、彼は露わになったわたしの肩を長い指先でなぞる。
「あっ」
肩に触れる感触に、ビクッと身体が強張り。
「……んっ」
そのままわたしの唇は彼の唇に塞がれた。
柔らかい彼の髪がわたしの顔にかかって、頬をくすぐる。
そして肩に触れていた指はわたしのあごを優しく持ち上げ。
ゆっくりと目を閉じると、それを合図にして、甘く深く重なっていく口づけ。
カタン。
手にしていたカフェオレのカップが落ちる音が、木々の葉ずれの中に響く。
やわらかくふたりを包む、少し早い初夏の空気。
温もりを確かめ合うわたしたちの横には、同じ背表紙の少し茶色がかった本が一冊ずつ。
出会った時からのふたりの時間を。
そしてこれからの時間を見守るかのように佇んでいるのだった。
――End.