「翔くん……」

「詩季ちゃん、ごめん。今、いいかな?」

わたしの姿を確認して、かすかに頬を赤くする翔くん。

わたしが頷くと、彼はスッと室内に入り込み、後ろ手に扉を閉めて。

「あっ……」

さっきまで背中に感じていた彼の胸。

そこに頬を押し付けるように。

肩と腰に回った腕が、息苦しくなるほどの力でわたしを彼の方へと引き寄せる。

「翔……く……」

「詩季ちゃん」

わたしの言葉を遮るように、低く掠れた声がわたしの名を呼ぶ。

いつもとは違う翔くんの声は、ゾクッとするほど色っぽくて。

耳に触れた吐息に頭の中に霞みがかる。

「詩季……」

「……んっ」

彼の顔を見上げた、その瞬間。

突然、唇を奪われた。

状況を理解する間もなく、すぐに深くなる口づけ。

息継ぎをする時間さえも与えない、彼にしては珍しく余裕のない激しいキス。

「しょ……」

息苦しくなって抵抗しようともがいた手は、彼の大きな手に掴まれ、壁に押し付けられた。

酸素が回らなくなった身体から力が抜けていく。

(翔……くん……)

「……ごめん」

わたしの腕から力が抜け落ちたことに気づいて、ようやく唇を離した彼は、そうつぶやいた。

「あっ」

熱い息が敏感になったわたしの肌に触れて。

その声がわたしの鼓膜を刺激して。

ビクッと身体が震え、わたしは膝から崩れ落ちた。

「……っと。ごめん」

とっさに伸ばされた腕に支えられて。

今度は優しく、労るように包み込んでくれる腕。

「翔くん……わたし……」

見上げると、真っ赤な顔をした彼の顔があって。

「詩季ちゃん……ごめん。オレ、我慢できないかも……」

熱を帯びたふたりを包むのは、濃厚で甘い誘惑を纏う、薔薇の香り。

そしてこの日撮影されたポスターは、大きな話題を呼んで。

後にわたしたちはふたりで、同じ衣装に身を包んでステージに上がることになる。

ベストジーニスト授賞式と掲げられた会場の。


――End.



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