ふわりと柔らかな波を打つカーテンから。
太陽の光が木洩れ日のように、一筋、二筋。
室内に差し込んで来る昼下がり。
そっと持ち上げた白い陶磁器のカップから上る湯気が、ゆらゆらと揺れて。
甘い香りが鼻をくすぐるのと同時に、ポロリ。
一滴の涙がわたしの目からこぼれ落ちた。
目の前をかすめる白いもやに、ふぅっと短く息を吹きかけて
わたしは一口、それを口にする。
「カーット!はい、OK!」
その声を合図に、途端に騒がしくなる室内。
「詩季ちゃん、お疲れ様」
セットから降りて頬を濡らす涙を拭おうとティッシュボックスに手を伸ばす。
すると少しだけ早く誰かが先にそれを持ち上げて、わたしに差し出してくれる。
「あ……砂原さん。ありがとうございます。砂原さんもお疲れ様でした」
箱を受け取ってわたしは微笑みを浮かべる彼に頭を下げる。
「後は俺が必ずいいCMに仕上げてみせるから」
「はい。よろしくお願いします」
とあるテレビ局のスタジオで行われていたのは、CM撮影。
新発売のインスタントミルクティーのCMに、わたしは起用されて。
そして目の前に立つ、長身のモデルさんのような整った顔立ちの彼。
映像の編集と、今回はCMのシナリオも手掛けている、砂原智也さん。
彼の手掛けるCMの商品は必ずヒットすると言われる、映像業界では有名な人物。
そんな彼の作ったシナリオは、こうだった。
日曜日の昼下がり、リビングで観ていた映画にポロリと涙を流して、紅茶を一口、ホッとする。
偶然でも、初めて一磨さんの部屋を訪れた時のことを思い出す。
あの時に彼が淹れてくれたミルクティーの味。
ソファの真ん中にほんの少しだけ空いた、ふたりの間隔。
一緒に観た『ハーフタイム・エレベーター』。
それを思い出して、なぜだか自然と涙がこぼれた。
一磨さんとは、仕事ですれ違う日が続いて、もう3週間も会えていない。
(会いたいな……)
そんなことを考えながら、わたしはスタジオを後にした。