「このドレス……すごく似合ってる。キレイだ……」

間近にある瞳には、わたしの姿が映っていて。

ゆっくりと伸ばされた手が、わたしの腰を強く抱く。

「こんなにキレイな詩季を……本当は誰にも見せたくなかった」

彼の熱い吐息にほだされて、次第にわたしの身体も再び熱を帯びてくる。

「か、一磨……酔ってるの?」

階下ではまだたくさんの人の熱気と豪華な料理やお酒が、眠らない夜を渦まいているだろう。

ほんのりとお酒の匂いのする彼の胸。

「うん……酔ってるよ。詩季に……」

そんな囁きが耳の横で落とされる。

「あ……」

思わず漏れてしまった声に、彼はクスリと笑って、そっとわたしを解放する。

「もう帰るなら、一緒に帰ろう?俺も、帰ろうと思っていたんだ」

その言葉の意味を察して、鼓動が駆け足になっていく。

「……久しぶりに、今夜はふたりで過ごしたい……俺と一緒に帰るのは、嫌?」

目の前にあるやわらかな微笑みとは対照的に、それは拒むことを許さないような力があって。

わたしはコクリと首を縦に振る。

夜の闇に紛れるように、わたしたちはホテルを後にする。

東京のど真ん中。

ここで開かれたのは、国際映画祭。

以前わたしが出演したWave主演の映画が出品されることになり。

わたしは監督やWaveのみんなと共に、この日初めて、レッドカーペットを踏みしめたのだった。


――End.



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