「詩季ちゃん。PVのこと……山田さんから聞いた?」
夜も更けた静かな公園のベンチに並んで腰掛けると、翔くんは穏やかな声で話し始めた。
サラサラと木の葉を揺らす夜風がふわりと髪を撫でて。
繋がれた手の感触と、風の心地よさに目を細める。
「うん……聞いたよ」
「そっか……もし、詩季ちゃんが抵抗あるなら……無理しなくていいから」
きっと、さっきの事で、心配してくれているのだろう。
いつも、わたしのことを一番先に考えてくれて。
大切にしてくれる。
そして真っ直ぐに想いを向けてくれる。
そんな翔くんがすごく頼もしくて、愛しくて。
もう少しだけ、彼の温もりを近くに感じたくて。
わたしは自分から、ふたりの間にある拳ひとつ分の距離を埋めるように、彼の肩にそっと頭を乗せた。
「わたし……翔くんと一緒にお仕事がしたい」
「……詩季ちゃん……」
ピクリと小さく彼の肩が揺れて。
そしてわたしは伸びて来た腕にきつく抱き寄せられた。
力強い腕が、わたしの中に広がっていた不安を少しずつ溶かしてくれる。
かなわない、と思った。
わたしが必死に隠した不安も、翔くんには全てお見通しで。
彼はいつかの約束の通り、いつもわたしを守ってくれる。
出会った頃はまだ、少年のようなあどけなさの方が強かった彼の印象。
それが最近は、急に大人の男性を意識させるようになって。
だからわたしは、安心して彼について行ける気がする。
「……詩季ちゃんのことは、俺が守るから。ファンの子たちにも……俺がちゃんと説明する。だから、もう少しだけ……待っててくれる?」
触れ合った部分を通して伝わってくる翔くんの言葉。
わたしはその肩に身を預けたまま、静かに頷いた。
「……うん」
柔らかい風に流れて行く薄い雲が、ほんのひと時。
わたしたちを月の光から隠してくれて。
近づいてくる温もりに、わたしはそっと目を閉じる。
ふわりと触れ合った唇の感触は、わたしの心も包み込むように、優しさで溢れていた。