「詩季ちゃんと付き合うようになってから……仕事で褒められることが増えて。それはきっと、詩季ちゃんのお陰なんだって思ってる」

「あ……」

思わず顔を上げると、切なげな瞳と、少し赤らんだ頬があって。

「詩季ちゃん……」

コツンと、一磨さんの顔が近づいて、おでことおでこが触れ合う。

「わたしも……同じ。一磨さんと付き合うようになってから、仕事が増えて……」

「そっか。でも俺は……仕事も大事だけど、詩季ちゃんとの時間をもっと増やしたいと思うんだ」

そう言って彼はふわりと柔らかい笑顔を浮かべる。

そして少し身体を離した彼は、ポケットから何かを取り出して、わたしの前に差し出した。

「これ……」

差し出された手の中には、1本の鍵。

「俺の家の鍵だよ」

胸に広がる小さな期待に応えるかのように彼は言う。

その穏やかな眼差しに促されて、わたしは手の平に乗せられた鍵を受け取り。

そっと、胸に抱きしめた。

「今は、仕事を頑張る時なんだって分かってる。詩季ちゃんも忙しいだろうし、これを使うのはまだ先になるかもしれないけど……持っていて、くれる?」

わたしのことを思って、考えて。

この鍵を用意してくれたことが嬉しくて。

言葉の一つ一つが、わたしの胸に染み渡って。

言葉に出来ない想いの代わりに、コクリと小さく首を縦に振った。

「良かった……」

ホッとしたように息を吐いて、柔らかく微笑んだ一磨さんの手が、わたしの頬を包み込む。

間近にある彼の顔がほんの少し、滲んで見える。

「これから先、たくさんの思い出を詩季ちゃんと作っていきたい……そんな思いを込めたんだ。あの歌詞には……」

「一磨さん……」

頭の中で再び流れ始める、彼からのメッセージ。

その瞬間。

わたしの瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちて。

「詩季……」

わたしの名前が囁かれるのと同時に、ふわりと。

彼の熱い唇がわたしの唇に重ねられる。

「ん……」

瞼を下ろすと、ゆっくりと深くなっていく口付け。

会えない時間を埋めるように、心を満たすように。

わたしたちはお互いの温もりを確かめ合うのだった。

胸の中に流れる、彼の歌を聞きながら。


――End.



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