「……今度の曲、詩季ちゃんが作詞をするんだって?」
夏輝さんに誘われて、彼の家へとやって来たわたし。
テーブルにコーヒーを置いてソファに座った彼はそう切り出した。
「そうなんですけど……作詞って実はあまり得意じゃなくて……」
そう言うと、ポンとわたしの頭に彼の手の温もりを感じる。
「うん……思っていることや伝えたいことを言葉にするのって、難しいよね。どうやったら相手に伝わるのか、伝えられるのか……」
そう話す夏輝さんの瞳が遠くを見つめるように細められた。
それはとても穏やかで優しくて。
でもどこか少しだけ、切なさが混ざっている気がする。
彼はフッと微笑みを浮かべると、ゆっくりと視線をわたしへと向ける。
「詩季ちゃん……」
「……あ」
絡み合った視線。
わたしに向けられる瞳は真剣そのもの。
そこにある熱を感じて、わたしの胸が揺さぶられる。
「俺の気持ちも……ちゃんと、伝わっているのか……不安になる時があるんだ……」
「夏輝……さん……」
ゆっくりと近づいてくる瞳。
縮まるふたりの距離。
吐息が触れ合うほど近くに彼の存在を感じて。
思わず目を閉じようとした時。
「……そんな風に目を閉じたら……もう、俺……我慢出来ない、よ?」
切なさの覗くその声と表情。
ギュッと胸が締めつけられて、そして言葉に出来ない彼への想いでいっぱいになる。
「夏輝さん……」
全てを受け入れるようにそっと、瞼を下ろす。
「詩季……」
甘い囁きが空気に溶けていって。
わたしは彼と過ごす熱い夜の中で、ひとつの想いが形になったのを感じていた。
それはやがて、メロディーと共に電波に乗ることになる……。
――End.