それから1ヶ月。
歌番組の収録を終えたわたしは、控え室でそっと息を吐く。
胸に蘇るのは、あの曲。
コン、コン。
不意に扉をノックする音が響き、わたしは立ち上がる。
「……義人くん……」
開いた扉の向こうに立っていたのは、思い描いていたその人だった。
「時間……大丈夫?」
「う、うん。どうぞ」
体を滑り込ませるように室内に入った彼は。
そのまま流れるような仕草でわたしを抱き寄せた。
「義人くん……」
「……ありがとう」
背中に回る腕の温もりが、わたしの心を一瞬で満たしてくれる。
「今日の新曲の歌詞……詩季ちゃんがいたから、出来たんだ」
そう言って彼は、ふわりと微笑む。
わたしに向けられる眼差しが優しくて。
ドキンと胸が音を立てる。
そう。
新しいWaveの曲は、彼が作詞した曲だった。
「俺は、言葉で伝えるのが苦手だから……いつも、ごめん」
「そんな……謝ることなんて……」
戸惑うわたしの頬に、彼の大きな手が触れる。
「詩季ちゃんへの気持ちだよ……」
そう言って、義人くんはゆっくりとふたりの距離を縮めてくれる。
「ありがとう……大好きだよ……詩季」
やわらかく重なり合った唇から、想いを伝え合う。
言葉は少なくていい。
こうして、一緒に居られるだけで。
“君の名を呼ぶ度 君の声を聞く度
温もりを思い出す 心溢れ出す
繋いだ手も その笑顔も もう離さない
ありがとう
心の言葉 君に伝えたい この歌に乗せて”
――End.