(えっ……?)
一瞬のことで、すぐには状況を理解できない。
唇が触れそうなほどに近づいた義人くんの顔が、苦しげに歪められる。
「……ごめん」
ハァ、と息を吐き出して、彼はわたしから手を離した。
(どうして……?また、我慢するの……?)
「……義人くん……ごめんね……」
目の前にある悲しげな瞳に胸が苦しくなり、わたしはそっと彼の頬に両手を触れる。
「助けてくれて、ありがとう……」
「詩季ちゃん……」
義人くんの瞳にわたしの顔が映る。
「我慢しないで」
「え……?」
「思っていること……言っていいんだよ?わたし……義人くんの心の中にあるもの、受け止めたいの」
……ギュッ
わたしの言葉に、義人くんは痛いくらいに強くわたしを抱きしめる。
「……詩季……」
低く掠れた声がわたしの名前を呼ぶ。
それは何かを耐えているようにも感じられた。
「……君に会いたくて……触れたかった……」
「義人く……」
「アイツが君に言い寄っているのを見て……」
そこで言葉を切った義人くんの腕が、かすかに震えていることに気づいた。
(ううん……腕だけじゃない……心も……)
わたしはそっと義人くんの胸を押して、少しだけ身体を離す。
そしてそのまま、彼の首に抱きついた。
「詩季……?」
「……大好き」
目を見開いてわたしの顔を覗き込む義人くんに、わたしはささやいて唇を寄せる。
そっと触れ合った唇。
義人くんの左手がわたしの腰に回され、右手でわたしのアゴを持ち上げる。
(ん……)
唇から伝わる温もりは、次第に心と身体を熱くしていく。
彼への想いとともに……
――End.