「…ん…っ」
頬を撫でた指が、つうっと首から肩を伝って、背中へ伸びていく。
その感覚に、思わず体が震える。
「あ…」
「っ…そんな声出されたら…歯止めが効かなくなるから…」
目の前にある熱を孕んだ黒い瞳が、切なげに揺れる。
扉の向こうからかすかに聞こえる、クリスマスパーティーの会場の喧騒。
「だ…って…っ…ん…」
掠れた声は、一磨さんの唇に飲み込まれて。
ゆっくりとカウチに倒されていく体。
優しく背中を支える腕が、ドレスのファスナーに伸ばされた。
「待っ…んっ…はあ…」
唇の端からこぼれる言葉とは裏腹に、無意識のうちに彼の首に腕を絡める。
「…ごめん…足に負担、かけないようにするから…」
そっと頷いて目を閉じる。
すっと下ろされたファスナー。
ゆっくりと肩を滑り落ちていく布の感触。
シュッとネクタイを引き抜く音が聞こえて、彼の羽織っていたジャケットがカウチの背に掛けられた。
「詩季…」
「んっ…」
吐息のようなささやきが、耳から、肌から伝わって。
露になった素肌をなぞっていく指先に、ゾクリと体が震えて声が漏れる。
「あっ…ん…」
やわらかく熱い感触が胸先に絡みつくのと同時に。
太ももを伝った指先が、水音を響かせて敏感な部分を撫で上げた。
「会場で詩季の姿を見た時から…本当は触れたくて…仕方がなかった」
囁く声が、胸元から少しずつ下へ降りていく。
くすぐったくて、もどかしくて、触れて欲しくて。
わたしも同じ気持ちだったなんて、とても言えない。
「綺麗だよ…」
痛めた右足を伺うように、太ももに口づける。
それがたまらなく、わたしを煽った。
「っ一磨…お願い…」
「…っ」
自分がそんな恥ずかしいことを言うなんて。
一瞬、息を飲んだ彼は、顔を上げて、言った。
「もっとちゃんと…お願いして?俺に…どうして欲しいの…詩季は」
優しく、熱く、意地悪く、いたずらっぽく。
真剣なまなざしに捕らえられて動けない。
こんな彼の姿は、初めてだった。
でも。
戸惑いと羞恥心以上に、高ぶった熱に体がはけ口を求めていて。
もう何も考えられなかった。
「欲しいの…お願い…一磨が、欲しい…」
熱にうかされた言葉が、空気に溶ける前に。
全身を貫く衝動に、わたしは声もなく叫んだ。
「…っ!!」
目を開けると、真っ直ぐにわたしを見つめる、愛しい黒い瞳。
絶え間なく続く律動に、背中をしならせながら。
視界の端に、白い綿雪の舞う夜空が映っていた。
―End.
2012.12.23