5

「…ごめんね…心配、かけたよね…」

疲れ切ってソファで眠る恋人の長い艶やかな髪を撫でながら、そう謝罪の言葉を口にする。

感情に任せて、こんな風に彼女を抱いたのは初めてだった。

情けない気持ちで、申し訳ない気持ちで、胸を締めつけられる。

きっと彼女を傷つけただろう。

「こんな俺…嫌いになっても仕方ないよな…」

そう吐き出した時。

「…嫌いになったりなんて…しない」

「…え…?」

ゆっくりとまぶたが開かれて、真っ直ぐな目が俺に向くと。

彼女はふわりと優しく微笑んだ。

「びっくりしたけど…夏輝さんが気持ちをぶつけてくれたことが…嬉しかった」

「詩季ちゃん…」

「夏輝さんが感じていること、もっとわたしに教えてほしい。もっと夏輝さんを知りたい…」

「…嫌にならない…?」

「ふふっ。嫌になんて、なるわけない…」

伸びて来た白い腕が、俺の頭を抱き寄せて。

ふたりの距離を埋めるように、近づいてきた彼女から、優しいキス。

唇から伝わる温もりが、そっと心を包んでくれる。

「…大好きだよ…」

「わたしも…」

こうして君が受け止めてくれたから。

醜い感情も、君になら。

見せられるかもしれない。

「ありがとう…」

いつか、君に贈りたい。

あの曲の歌詞にあるように。

“108本の薔薇の言葉”を。


―End.

2012.11.13



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