「…ごめん、俺…っ!」
何かを言いかけて、ハッとしたように、彼はわたしから手を離して背を向けた。
その背中が、何だか寂しげに見えて。
心が、体が、勝手に動いてしまう。
「…詩季…ちゃん…?」
気がつくとわたしは、彼の背中をぎゅっと抱きしめていた。
さっきわたしがそうだったように、戸惑いの声が降ってくる。
それでも、離さなかった。
腰に回した腕に、ぎゅっと力を込めて。
後ろから感じる愛しい温もりに、押し込めた気持ちがまたふつふつと沸いてくる。
どこでそんなことを覚えたんだ。
素直で、優しくて、まっすぐで。
彼女といると、優しくなれる。
穏やかな気持ちになれる。
でも時折、こうして醜い感情が胸を支配することも、彼女に出会って気づいた。
「…好きです…夏輝さんのことが…ずっと、会いたかった…」
俺の背中に顔を埋めて、彼女がそうつぶやいた時。
こらえていたものが、プツリと音を立てて溢れ出した。
「詩季ちゃん…そんなこと言ったら…俺、優しくいられないけど…いい?」
「夏輝…さん…」
振り返らないまま、そう言った俺は、拒絶されるのを覚悟していた。
どうかしている。
自分でもそう思うほど、嫉妬と欲望でめちゃくちゃだ。
「…はい…夏輝さんになら…優しい夏輝さんも、それ以外の夏輝さんも…夏輝さんの全部が見たいから…」
「…!」