3

「…ごめん、俺…っ!」

何かを言いかけて、ハッとしたように、彼はわたしから手を離して背を向けた。

その背中が、何だか寂しげに見えて。

心が、体が、勝手に動いてしまう。

「…詩季…ちゃん…?」

気がつくとわたしは、彼の背中をぎゅっと抱きしめていた。

さっきわたしがそうだったように、戸惑いの声が降ってくる。

それでも、離さなかった。

腰に回した腕に、ぎゅっと力を込めて。


後ろから感じる愛しい温もりに、押し込めた気持ちがまたふつふつと沸いてくる。

どこでそんなことを覚えたんだ。

素直で、優しくて、まっすぐで。

彼女といると、優しくなれる。

穏やかな気持ちになれる。

でも時折、こうして醜い感情が胸を支配することも、彼女に出会って気づいた。

「…好きです…夏輝さんのことが…ずっと、会いたかった…」

俺の背中に顔を埋めて、彼女がそうつぶやいた時。

こらえていたものが、プツリと音を立てて溢れ出した。

「詩季ちゃん…そんなこと言ったら…俺、優しくいられないけど…いい?」

「夏輝…さん…」

振り返らないまま、そう言った俺は、拒絶されるのを覚悟していた。

どうかしている。

自分でもそう思うほど、嫉妬と欲望でめちゃくちゃだ。

「…はい…夏輝さんになら…優しい夏輝さんも、それ以外の夏輝さんも…夏輝さんの全部が見たいから…」

「…!」



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