ザアアアア。
パシャパシャパシャ…。
アスファルトを激しく打ちつける雨音。
その中に、ふたつの足音がかき消される。
流れ出た雨水が排水溝の急流に飲み込まれて。
後には何事もなかったかのように、ただひたすらに雨が降り続くだけ。
rain stops, good-bye.
バタン。
音を立てて開いた扉の中に駆け込んで、わたしはようやく息をついた。
「はぁ、はぁ…」
「詩季ちゃん…大丈夫?」
床にへたり込んだわたしに、一緒にいた一磨さんが声をかけてくる。
「はぁ…うん…大丈夫…」
「…まだ誰も来ていないみたいだけど…この天気じゃ、無理かもしれないな」
そう言って、彼は室内を見回した。
舞台の稽古場であるこの部屋にはわたしたち以外に誰もいない。
最寄り駅に着いたわたしは、改札口で偶然にも彼と会って。
ここへ向かう途中にゲリラ豪雨に見舞われたのだ。
〜♪
と、一磨さんの携帯が着信を告げる。
「…はい、本多です」
取り出した携帯の画面を見つめて、わたしに頷きかけると。
一拍置いて彼は電話に応答した。
恐らく、電話の相手は演出家の咲野さんだろう。
そっと窓辺へ近づいて、赤黒い空を見上げる。
晴れていたら、今頃綺麗な夕陽が見られたかもしれない。
窓を叩く雨の音に、一磨さんの声が遠くなり。
濡れた前髪から、ツウ、と雫が頬をう。
鞄から取り出したタオルを手に、雨足の強くなった窓の外を見つめた。
今日の稽古は中止だろう。
「…詩季ちゃん」
いつの間にか電話を終えた一磨さんに声をかけられて。
振り返ったわたしに、彼は目を見開いて、バッと顔を赤く染めた。
「一磨、さん…?」
その瞬間。
ハッとしてわたしは自分の姿を見下ろした。
「…っ!」