崩れ落ちそうな腰を、後ろから彼のたくましい腕が引き上げて。
そのまま強く腰を打ち付けられる。
「ああっ!春!…やああ!」
震えの止まらない体。
もう何も考えられない。
彼の熱と、肌の感触と、飛び散る汗と、絡み合う水音。
「…詩季っ…はっ…もっと、俺を感じて…酔って…」
そんなこと言われなくても、わたしの心には、春。
あなたしかいないよ。
あなたしか感じられない。
あなたしか見えない。
あなたへの想いを体が知っていて。
壊れるくらいに、もっとあなたが欲しい、って。
そう言ってる。
「詩季っ…!はぁっ…愛してる…っ」
「春…春っ…ああぁ…っ」
大きく立ち上る波が、襲ってくる。
飲まれそうで、それが少し怖くて。
ぎゅっと目を閉じてソファを掴んだ。
「春…!!」
「っ…詩季…!!」
ふわりと握り締めた手を包む、大きくて温かな存在を感じた瞬間。
ふたりの熱が弾けて混ざり合い、わたしはそのまま意識を失ったのだった。
ポロン、ポロンと、心地よい音が耳をくすぐる。
ゆっくりと意識が浮上して、まぶたを開けると、まだソファの上だった。
「ん…は、る…」
ぼんやりと、まだ覚めきらない頭で、ぽつりとつぶやく。
「詩季…」
弦の震える音が止まって、カタンと音がしたかと思うと。
目の前が突然、赤色に染まった。
「え…っ?」
焦点が定まって、それが何かを知ると同時に、彼の穏やかな声が耳に届く。
「…知っている?…1000本の薔薇は…一万年の愛と言うそうだ…」
「春…」
「今は…この、9本の薔薇をキミに…」
9本の薔薇の意味。
それは、春に教わった。
薔薇は、贈る本数にそれぞれ意味があるのだと。
ドラマに出てくる108本の薔薇は、プロポーズの言葉。
9本の薔薇は。
「わたしも…いつも春を想ってる…一緒にいたい…ずっと…」
―End.
2012.11.11