「栗巻さん、大丈夫ですか……?」
「んー……ん?」
とろんとした目を向けて、栗巻さんは歩きながら私の肩にもたれかかるように頭を近づけて来た。
(えっ……)
ドキッとしながらも、その甘えるような仕草が可愛くて、思わず頬が緩む。
「四葉、いい匂い……気持ちいい」
月が照らし出す夜道には、私たちの静かな足音と、時おりガサッとなるコンビニの袋の音だけが響いている。
2月13日。
四つ葉荘では賑やかに誕生日パーティーが開かれていた。
そう、明日2月14日のバレンタインデーが誕生日の私と。
そしてその5日後の2月19日が誕生日の栗巻さんの合同パーティー。
珍しくその席でお酒を口にしていた栗巻さん。
足りなくなったお酒の買い出しに、なぜだか主役の私たちふたりがこうして出かけることになったのだった。
「眠たそうですね……」
「んー……このまま寝る」
「え……えっ!ちょ、ちょっと、栗巻さん……」
そのままの体勢で、本当に寝るつもりなのか、栗巻さんの体重がずしっと私にのしかかって来た。
「ちょっと……待ってください!まだ家に着いていませんよ!ちゃんと布団で寝ないと……」
焦ってそう言って身体を揺さぶると、うつろな目が私を捕らえる。
「ふっ……四葉、かわい」
(えっ……何?もしかして演技……?)
「早く帰って寝よ」
戸惑う私をよそに、栗巻さんはつないだ手をぎゅっと握り、スタスタと歩き始めた。