コン、コン。
(……ん……?)
朝。
何かノックのような、物を叩く音が聞こえて、私はゆるやかに意識を浮上させた。
コン、コン。
もう一度響いたその音に耳を澄ませる。
(……あ……もしかして……)
時計を確認すると、目覚ましの鳴る10分前。
コン、コン。
私はムクリとベッドから起き、あくびをこらえながら立ち上がる。
そしてクスリと笑うと、窓を開けた。
「四葉、おはよ。ごめんな……起こしちゃって」
隣の窓から顔を出した裕ちゃんに私は声をかける。
「おはよう、裕ちゃん。どうしたの?今日は早いんだね」
朝早い空気が冷たくて、頭がスッと醒めていく気がした。
私に向けられるまなざし。
寝起きの顔を見られるのが何だか恥ずかしくて、半分顔を隠すようにして手を目元に持っていく。
「ああ、四葉、ダメダメ。目こすったらウサギさんになっちゃうぞ」
「だ、だって……」
こんな些細なやり取りだけど、自然と顔がほころぶのが自分でも分かる。
「この距離が近いようで遠いんだよなぁ……」
ボソリとつぶやいた裕ちゃんの言葉に、少し、胸がキュッとなる。
「いつか、この手がすぐに届くくらい近くになるかな……」
「裕ちゃん……」
私に向かって伸ばされた手。
それを見つめていると、彼は「なーんてな」と言ってペロッと舌を出した。
「ところで四葉。今夜ちょっとお時間頂戴できますか?」
「え?……今夜?」
「ん。今夜」
突然の言葉に驚きながらも、私は首を縦に振る。
「良かった……んじゃ、11時に屋上集合な」
「屋上?」
「あ。ちゃんとあったかい格好して来るんだぞー?」
「う、うん。分かった」
意味が分からないまま、私は返事を返した。
裕ちゃんはそんな私を横目に見ながら、フッと笑う。
それが何だかすごく嬉しそうで、優しい気配がして、私の心も温かくなる。
(……ま、いっか……明日にしようと思っていたけど……今夜持って行こう)
私はチラリと部屋の中に視線を戻す。
机の上には、丁寧にラッピングされた袋。
今日は12月10日、金曜日。
そう。
裕ちゃんの誕生日の前日だ。