最低気温、マイナス2度。
この冬一番の寒さだと、ニュースでしきりに言っていた。
1日の講義が終わり、わたしは短くなった陽が沈むのを眺めながら、大学を後にする。
(寒い……な……)
この寒さのせいか、朝から何となく気だるさを感じていた。
両手で自分を抱きしめるように身体を小さくした時。
軽い足音と共に背後から声が響いた。
「四葉!」
(あ……)
それは聞き違えるはずもない。
わたしの一番、大好きな人の声。
「裕ちゃん……」
「四葉、これから帰るとこ?」
隣に並んだ裕ちゃんが、わたしに歩幅を合わせながら、そう言って顔を覗き込んでくる。
「うん」
小さく頷くと、彼はパッと笑顔になる。
「んじゃ、一緒に帰りましょうか。可愛いお嬢さん?」
いたずらっぽくウインクして見せる彼に、わたしは思わず笑った。
「裕ちゃんったら……」
大学院に通う彼とは、こうして一緒になることはほとんどない。
久しぶりに肩を並べて歩けることに頬がゆるんでしまう。
そんなわたしと同じ気持ちだったのか、彼はポツリと言った。
「久しぶりだなぁ。四葉とこうやって一緒に帰るの」
「うん……そうだね」
スッと伸びて来た大きな手が、手袋越しにわたしの手に触れて、指を絡め取った。
そっと隣を見上げると、かすかに頬を染めて、穏やかな目がわたしを見下ろしている。
「裕ちゃん……」
と。
突然、背筋に悪寒が走り抜けて、わたしは思わずブルッと身震いをした。
「四葉?どうしたの?」
「裕ちゃん……寒い……」
身を縮めて震える唇でそう伝えると、彼の温かい長い腕がわたしの身体を包み込む。
その瞬間、ビクッと彼の腕が揺れて、大きな手がわたしの頬に触れた。
「……熱い」
短くつぶやきが落とされ、慌てた様子でわたしの顔を覗き込んでくる。
突然の至近距離に戸惑っているわたしに、彼は真剣な面持ちで言った。
「四葉、どうしてこんなになるまで放ってた?ほら、裕ちゃんがおぶってあげるから……早く暖かくしないと」
コン、コン。
遠くでかすかにノックの音と、誰かの話し声が聞こえる。
「……そうか。じゃあ、四葉ちゃんのこと、頼むよ。何かあったら呼んでくれ」
「うん、任せて。カズさん♪」
「お前なぁ……」
どこか諦めたような苦笑いが遠ざかっていく。
パタン。
ふわふわと、まどろみの中にいるようなこの感覚は、熱に浮かされているからなのか。
わたしは大学からの帰り道、高熱を出して倒れてしまった。