ドキドキと早鐘を打つ心臓を持て余して、わたしはふうっと大きく息を吐いた。
目の前の鏡に映る自分の姿。
それにチラリと視線を向けると、ますます頬が熱くなる。
コンコン。
すると、扉をノックする音が聞こえて。
「……準備は出来た?」
そう言って入って来たのは、彼だった。
「菊原さん……」
わたしの姿を見た彼は、かすかに目を見開いた後、フッと微笑みを浮かべる。
そしてスッと長い指をわたしの頬に滑らせて言った。
「…よく、似合っている」
目の前の彼の姿と、指の感触。
そして向けられるまなざしに、カアッと身体が熱くなる。
「菊原さんも…すごく、似合ってます…」
恥ずかしさに耐え切れず、わたしは彼から視線を外して。
自分の姿を見下ろした。
繊細なレースの層と、散りばめられたパール。
清楚な白は、彼の色に染まるため。
「キミは綺麗だから…誰よりも、ね」
ゆっくりと腰に回された腕に抱き寄せられて。
覗き込むようにした彼の顔がすぐ目の前にある。
「予行演習…しておく?…健やかなる時も、病める時も…」
「菊原さ…っ」
甘い囁きと共に唇が奪わわれた。
与えられる温もりに胸が震え。
露わになった肩に、少しだけ冷たい手が添えられる。
「ずっと、側にいてほしい…」
「…はい…」
誓いのキスには長くて。
でも、いつも彼がくれるキスよりは優しくて。
その温もりに酔いしれてしまいそうになる。
「…続きは、また後で」
触れた時と同じように、スッと離される熱。
ぼうっとした頭で、少し名残惜しさを感じるわたしに、彼は手を差し出した。
「…行こうか」
――End.