ぽかぽかとやわらかな日差しに誘われて。
わたしはある場所にやって来ていた。
一面をゆらゆらと風に揺れる黄色い花が覆っている。
「……四葉」
「はい?」
目の前に広がる菜の花畑の中。
小さな黄色い花の束に顔を近づけて、すうっと春の香りを吸い込むわたしに。
少し離れた場所から声がかけられて。
振り返った瞬間。
パシャッと、聞き慣れたシャッター音が響いた。
「……ん。四葉の可愛い顔、いただきました」
満足そうに構えていたカメラから顔を外して、ふわっと微笑むその表情に。
キュッと胸が小さな音を立てるのが分かった。
「栗巻さんってば……」
彼のこの笑顔を前にしては、わたしに勝ち目はなくて。
つられるようにして、わたしも笑顔になっていく。
そんなわたしをまぶしそうに目を細めながら、栗巻さんは言った。
「四葉、花嫁さんみたい」
「……え?」
驚いて聞き返すわたしをよそに、彼は言葉を続けた。
「うん。その白いワンピース……花嫁さん。ね……こっちに来て」
小首を傾げて、甘えるように言う彼に、わたしの足は自然と動き出す。
そして差し出された手に自分の手を乗せた瞬間。
「きゃっ!」
彼の細く見える身体のどこにこんな力があるのかと思うほどの強い力で。
グイッと引っ張られたかと思うと、そのまま花の上に押し倒される形になった。
ドキン、ドキンと心臓が激しく打ちつける。
「く、栗巻さ……」
押し出した声は、彼の唇で遮られる。
「……誓いのキス……しないと……ね?」
再び降りてきた口づけは、甘くやわらかく、わたしの心を溶かしていく。
ゆっくりと深くなっていく温もりを受け止めながら、わたしは彼の首に手を回すのだった。
――End.