珍しく彼に誘われて夕食に出かけたのは。
ほんのりと夏の気配を感じる5月のことだった。
「……四葉」
食事を終えて、四つ葉荘へと帰る途中。
彼は街を一望出来る高台に車を停めて。
静かに、真剣な眼差しで口を開いた。
目の前には、キラキラと輝く無数の灯り。
「俺が携わっている映画のことで……四葉に話したいことがあるんだけど、聞いてくれる?」
そう言ってわたしの顔を覗き込む智也さん。
彼は今、和人さんと一緒に、映画制作に携わっている。
かなり有名な監督の作品で、和人さんはその助監督に抜擢されて。
そして智也さんはその映像編集の一切を担うという、とても大きな仕事。
彼の仕事が認められた嬉しさと、応援したい気持ち。
その反面、ただでさえ忙しい彼と、ますます会えなくなる寂しさ。
でも、彼の負担になりたくないという強がり。
色々な感情がわたしを渦巻いていた。
そんなわたしの心を見透かすように、目の前で智也さんはフッと目を細めて。
ポンポンと二回、わたしの頭を優しく叩いた。
「四葉……また俺と、一緒に仕事をしてくれないか?」
「……えっ?」
予想もしない言葉に、一瞬思考が止まって。
反応が遅れる。
驚きに目を見開くわたしを彼はどこか楽しげに。
それでも真剣な口調で言葉を続けた。
「CM用の映像を作るアシスタントを探しているんだ。以前、俺をサポートしてくれた子がいてね……学生だったんだけど、とても良い仕事が出来たと思っている」
そう言って、スッと姿勢を正すと、彼は真っ直ぐにわたしに向き直った。
わたしを見据える瞳が、頭上に輝く月の光を映して、妖しく煌めく。
ドキン、ドキンと打ちつける鼓動は、彼の言おうとする言葉の先を予感してのものなのか。
それとも、目の前にある瞳に魅入られてのことなのか。
彼は最後に、こう告げたのだった。
「俺のアシスタントは、キミ以外には居ない。キミが学業を優先したいと言うのなら、この仕事は俺一人で受ける。白樺四葉さん……俺のアシスタントを引き受けてくれないか?」
――to be continued.