サァッと薄く開かれた窓から、まだ冷たい風が室内に流れ込んできて。
「……う……ん……」
背後で小さなため息が聞こえて、わたしは振り返る。
布団の間に、やわらかな栗毛が見えて、思わず笑みをこぼした。
2月19日。
太陽は東の空を白く染めて。
まだ身体に残る温もりをわたしは抱きしめる。
懐かしい木の香りのするそこは、以前彼に連れて来てもらったロッジだった。
「四葉……?」
ふわりと温かな空気がわたしを包む気配がして、身体を後ろに引き寄せられた。
「あ……」
低血圧の身体は、寝起きにも関わらず体温が低い。
「おはよ」
ボソッと掠れた声と吐息がわたしの肌に触れて、ドクンと心臓が脈を打つ。
彼はそのままわたしの肩にあごを乗せると、甘えるように顔を首元に埋めた。
「栗巻さ……っ」
くすぐったさと、彼の肌の感触に、わたしは思わずビクッと身体を揺らす。
「四葉……髪……」
言いかけて彼は、わたしの髪をまとめていたヘアクリップをスッと外した。
はらりと落ちる、肩まで伸びた髪。
「ね……一緒に寝よ……?」
唇の動きがうなじを撫でて、わたしは思わず身を捩る。
熱を帯びた吐息が頬から首、肩へと移動していく。
甘えているようで、でもいつも彼のペースに巻き込まれてしまうのは、わたしの方なのだ。
「今日は……俺の言うこと、何でも聞いてくれるんでしょ……?」
「う……ん……」
再び、わたしは彼の熱に包まれる。
ふわりと甘い、薔薇の香りの髪が鼻をくすぐって。
やわらかな温もりが心を痺れさせていく。
身体も、心も、思考も、溢れる想いで埋め尽くされ。
「栗巻さ……」
ただ、わたしの口からは愛しい人の名前が落とされるだけだった。
「来年も……再来年も、ずっと……誕生日プレゼントは、四葉がいい」
熱いささやきは、彼の触れる肌から身体中を巡ってわたしを溶かしていく。
薄れる意識の中で、わたしの手から何かがコロンと音を立てて床に転がり落ちるのを聞いていた。
眠る彼女の瞼に優しくキスを落として、床に手を伸ばす。
それは、さっきその手で外した、ピンク色の薔薇のコサージュがついた、ヘアクリップ。
「四葉がいるから、俺は……本当の俺でいられる……だから……キミしかいらない」
――End.