「あ……」

目の前に現れたのは、小さな薔薇の花束。

それも、何となく。

見覚えがある気がする。

「今回の作品のテーマがね、『感謝』なんだ」

「感謝……」

「うん。僕……このテーマを聞いた時、一番に四葉ちゃんのことが思い浮かんで……」

少し照れたように頬を染め、はにかみながら彼はわたしを真っ直ぐに見つめる。

「四葉ちゃんと出会えたこと、四葉ちゃんを好きになったこと、誇りに思ってるんだ……」

「翔、ちゃん……」

「好きになった相手が四葉ちゃんだったから、僕は僕らしく進んで行けばいいんだって気が付いたし……素のままでいられるんだ」

彼の瞳が夕陽を受けてキラキラと光っている。

一歩わたしに近づいた彼の身体が、わたしをその影にすっぽりと飲み込んでしまうくらいに大きくて。

見上げた顔は、わたしより頭ひとつ分、上にあって。

急にドキドキと胸が音を立て始める。

「四葉ちゃんのことを考えていた時に、ちょうど花屋さんを見つけてね……そこにあった小さな薔薇の花束が可愛くて……」

「あ……」

彼の言葉に、先日見つけた小さなお花屋さんが脳裏をよぎった。

「あのね、翔ちゃん……わたしそのお花屋さん、知ってるよ。公園の向かいにあるお店でしょ?」

「えっ?あ……うん。そっか、四葉ちゃんも知ってたんだ」

「うん……だから、何だか嬉しかった」

わたしの言葉に、彼は優しく微笑んで。

「四葉……」

ゆっくりと、大きな手がわたしの頬に伸ばされる。

今日は、バレンタインのはずなのに。

わたしが先に贈り物をもらってしまった。

ゆっくりと降りてきた唇が、ふわりと重なる。

7本の小さな薔薇の花束の上で。

繋がったふたつのシルエットが夕陽に浮かび上がった。

「翔ちゃん……」

「なあに?」

「今日は何の日か、覚えてる?」

「え……あっ……」

クスクスと顔を見合わせて、わたしたちは笑い合った。

そして、今度は。

チョコレート味のキスを。


――End.



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