「わあ……可愛い」
大学からの帰り道。
2月にも関わらず、暖かい日が数日続き、わたしは少しだけ遠回りをして四つ葉荘へと向かっていた。
いつもの道から2本、隣に逸れたその道の途中には、小さな緑地公園があった。
その向かいにはドライフラワーで装飾を施された可愛らしい花屋さん。
軒先には『バレンタインにお花はいかがですか?』と手書きのプレートが掛かったブリキのバケツが置いてあって。
中には片手に収まりそうな小さな薔薇の花束がセンスよくラッピングされて入っている。
まるでアリスの国の入り口みたいな、カントリー調のお店だ。
わたしはそのお店の前に足を止めたまま、しばらく考え事をするのだった。
2月14日。
わたしは放課後、ある教室へと向かって歩いていた。
手元の携帯の画面には、少し前に届いたメールの内容が表示されたままだ。
目的の教室までやって来て、わたしはそっと小窓から中の様子を覗いた。
「翔ちゃん……」
室内には、窓から夕陽を眺める彼の後ろ姿がある。
わたしは小さくノックをして、そっと扉を開けた。
「あ……四葉ちゃん。ごめんね、いきなり呼び出しちゃって」
振り返った彼は、わたしの姿を確認して、優しく笑った。
その笑顔が、逆光になった太陽の光の中に浮かび上がって、いつもより少し大人びて見える。
「ううん。一緒に帰る約束だったし、わたしの方が早く終わったから大丈夫」
トクンと優しく揺れる胸を抑えながら、わたしは笑顔を返した。
見せたいものがあるからと、彫刻科の教室に呼ばれたのは、つい先ほど届いたメールでのこと。
「この前の課題で作ったものなんだけど……今日返って来たんだ」
そう言って彼は、布が掛けられた手の平サイズの何かを机の上に置く。
「……どうぞ。見てごらん」
「え……いいの?」
「もちろん」
大切な作品に触れて良いものかと迷うわたしを、彼の穏やかな笑顔が促してくれて。
わたしはそっと、作品に触れないように布を外した。