夕方、裕ちゃん宛に届いた差出人のない小包。

その中に、紫色の薔薇が描かれたポスターがあった。

いや、正確には『あなたのバレンタインより、愛を込めて』と記されて。

それが誰からの贈り物なのか。

ポスターを目にした彼は、あの時少し驚いて。

でもすぐに穏やかな笑顔を浮かべてわたしを見つめた。

きっと、彼には分かったんだろう。

色使いも、くせも、そしてきっと、想いも。


優しく背中に回された腕が、わたしの肩をそっと包む。

「……四葉、ありがとう」

そう言って彼は、わたしの目の前に何かを差し出した。

「え……?」

かすかに甘い香りのする、紫色の一輪の薔薇。

あの、ポスターに描かれた薔薇と同じ色の。

「四葉……紫色の薔薇の意味、知ってる?」

よく見ると、彼の長い指先には、薔薇と同じ色の絵の具がついている。

紫色の薔薇の意味は。

「『Falling in love』……」

ふわりと包み込むように唇に触れた温もりは、ほのかに苦いココアの味がした。


――End.



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