白い月の光がぼんやりと映し出す、窓際に置かれたキャンバス。
そこには、1枚のポスターが画鋲で留められていた。
スッと、その絵に触れる手。
「……あなたのバレンタインより……愛を込めて……か」
そうつぶやいた青年は、穏やかな、優しげな笑みを浮かべて、手にしていた小さな箱に視線を落とす。
そっと蓋を開けると、ココアの香りがふわりと辺りを包む。
一粒、指でつまんで口に入れると、ほんのりと甘さが口に広がって溶けていく。
それは、恋人からの贈り物だった。
そっとアトリエを覗くと、そこに人影を見つけてわたしは息を飲んだ。
深夜。
何となく眠れないまま、ベッドの中から天井を見つめていたわたしは、ふと隣の部屋の扉が開いたような気配がして、部屋を抜け出した。
(裕ちゃん……)
キャンバスの前に佇む、月明かりの中に浮かぶシルエット。
それは間違いなく、裕ちゃんだった。
「……っくしゅ」
そこにどれだけそうしていたのだろう。
パジャマのままで来たせいか、身体が冷えてしまったらしい。
ふいに込み上げて来たくしゃみを抑え切れずに、わたしは慌てて口元を押さえた。
けれど。
「……四葉?こんなところでどうした?」
「あ……」
わたしの顔を覗き込む瞳が、心配そうに揺れている。
「こんな格好で……風邪ひくぞ」
怒られるのかと身を縮めたわたしを、ふわっと温かい腕が包む。
「裕ちゃん……」
「眠れなかった?」
優しくささやく声が耳元に落ちて来て、わたしはコクリと頷く。
「そっか。俺も……四葉と一緒」
そう言った彼の視線が、再びキャンバスへと向けられる。
つられて視線を移動させると、そこには1枚のポスターが貼られていた。
(あ……)