「俺はいいから。キミが先に入ればいい」
「で、でも……」
「俺は男だから大丈夫だよ。それに……その姿は危険だ」
躊躇う私の頬をスッと指でなぞると、目を細めて菊原さんは呟いた。
「それでもと言うなら……一緒に入る?」
「えっ……!?」
「……いいよ、俺は。一緒に入っても……寧ろ、その方がうれしい」
耳元でそう囁くと、フッと笑う吐息が首筋をなで、ビクリと身体が反応してしまう。
「四葉は可愛いな。素直でいい子だ」
至近距離で見つめられ、まるで金縛りにあったかのように動けない。
「……だめだ」
ため息のような言葉が唇から洩れ、スッと身体が離れていく。
私から視線を外した菊原さんは、少し強い口調で言った。
「とにかく、先に入りなさい」
そう言い残して、脱衣室から出て行く。
パタン。
閉じられた扉を見つめ、ほっと息を吐くと同時にカッと全身が熱くなるのを感じた。
(う……菊原さんって、心臓に悪い……)
私は慌てて濡れて貼りついた服を身体から引き剥がし、熱いシャワーを浴びることにした。
……トンッ。
シャワーを浴びて着替えを終え、脱衣室を出ると同時に、何かとぶつかってしまった。
ハッとして顔を上げる。
「っと……悪い」
「っ!」
「どうかした?」
私の気持ちを察したのか、菊原さんはクスクスと笑った。
しなやかに伸びた腕と、いつも私を受け止めてくれる胸。
さらけ出された上半身がちょうど私の目線の高さにあった。
意地悪そうな瞳が近づき、目のやり場に困る。
「その顔……誘ってるの?」
「あ、あの……」
「悪い子だ。キミはすぐにそういう顔をして……俺を惑わせる」
「菊原さ……ん……」
手がスッとこちらに伸びてきて、私の頬に触れそうになったところでピタリと止まった。
「キミは気づいていないかもしれないが……」
そこで言葉は途切れ、一瞬迷うように空をさまよった目がまた私に向けられ、ふわっと優しく笑った。
「……俺の部屋で待っていて」
「え?」
「悪い子には、後でお仕置きだ」
その言葉に、ドキンと胸が高鳴る。
「責任、取ってもらおうか」
「それって……」
「今夜は……」
――――End.