「おーい、文ちゃーん!四葉ちゃーん!夕飯だぞー」
どれくらい時間が経ったのだろう。
カーテンで締め切られた暗室からは外の様子は伺い知ることができず、栗巻さんと私は暗室のソファに並んで座ったまま、ウトウトと眠ってしまっていた。
いつの間にか桜庭さんは隣のアトリエから姿を消していて、再びその声に気づいた時にはどうやら夜になっていたらしい。
「文ちゃん、四葉ちゃん?ここにいる?」
暗室に向かって近づいてきた足音がピタリと止み、扉越しにそっと声をかけられた。
「あっ……」
すばやく服装をチェックして、眠ったままの栗巻さんを起こさないようにそっとソファから立ち上がる。
カチャリ。
薄く開けた扉の隙間から、桜庭さんの顔が覗き、囁くように声をかけられた。
「ごめん、お邪魔しちゃった?」
「あ……いいえ、大丈夫です」
「よかった。ご飯できてるけど……文ちゃん、寝ちゃってるなら……後で来る?」
「えっ。でも……」
「めったにふたりになれないんだから……カズさんにはうまく言っといてあげる。ね♪」
そう言って桜庭さんは片目をつぶって見せた。
「あと……こっちのアトリエにはなるべく近づかないようにするから……安心してね」
「えっ?」
「恋人たちの邪魔しちゃ悪いでしょ♪」
意味深な言葉を残して桜庭さんは戻って行き、私は再びソファに腰掛ける。
「……ん……四葉……」
うっすらと目を開けた栗巻さんは無意識なのか私に抱きついてくる。
長い睫毛にかかる柔らかい栗毛。
白いきれいな肌。
ここに来たばかりの頃の冷たく突き放すような彼の態度からは想像もつかなかった。
「……大好き……」
そっと呟いて、彼の唇に唇を重ねた。
――――End.