「キス……する?」
(そんな……隣に桜庭さんがいるのに……)
心臓がバクバクと激しく音を立て始め、頭に血がのぼっていくのが分かる。
私は時々、栗巻さんの思いがけない大胆な言動に振り回されてしまう。
固まったままでいるわたしの顔を覗き込むように少し身体を離す栗巻さん。
「可愛い、四葉。食べちゃいたい」
(食べちゃいたいって……そんな、甘えるような声で言わないで……)
私の戸惑いなんてお構いなしというように、再び栗巻さんは私を抱きすくめて唇を落としてきた。
今度は、唇から頬へ、耳へ……
(だ、だめ……)
熱い吐息が声になりそうになって、思わず身体を押し戻そうとする。
けれど、ぼーっとし始めた意識の中でうまく力を入れられず、私の手は頼りなく服を掴むだけ。
「……あ……」
「大丈夫。サクさん、聞こえてないから」
栗巻さんの言葉の通り、耳の奥では桜庭さんの雄たけびが聞こえる。
どうやらゲームで負けた鬱憤をキャンバスに晴らしに来たらしく、べチャッと絵の具が振り撒かれる音までしているようだった。
「四葉、食べてもいいよね?」
甘える囁きとともに、再び息もあがるほどの口づけが降りて来たのだった。