カタカタカタとキーボードのタッチ音が響く大学のパソコンルーム。
わたしは課題を進めるため、休講になった2限目、ここにやって来ていた。
(……うん。こっちの方がいいかもしれない)
自分なりに満足のいく出来栄えに納得していると、キーボードの端のメール着信ランプが点滅した。
画面下に隠していたメールボックスを開くと、そこには。
(あ……)
『向かいの席を見て。 松本』
松本さんからの短いメールが届いていた。
(向かいの席……)
ドキドキと速まる鼓動と共に、ゆっくりと視線を画面の向こう側へと向ける。
(松本さん……)
眼鏡越しの黒い瞳が細められ、ふわりと優しい笑顔を浮かべた松本さんの姿がそこにはあった。
思わず頬がほころぶのを感じていると、彼は左手でパソコンの画面を指差した。
再び画面に視線を戻したわたしの目に入って来たのは、彼からの新しいメール。
『課題が終わったのなら、外で話さないか?少し早いが、昼食にしよう。 松本』
こんなに短い会話をわざわざメールで送ってくれる松本さん。
でも、以前のことを考えれば、彼がこうしてメールをくれるというだけでも、随分な変化だった。
その変化を、わたしは何よりも嬉しく感じている。
カチッとマウスをクリックして、わたしは返信内容を打ち始める。
『はい。行きましょうか。 四葉』
自分で書いた短いメールにわたしはクスッと小さく笑って、送信ボタンを押した。
「……本当に良かったのか?せっかくの休講なんだから、どこか外へ食べに行っても良かったんだが……」
そう言う松本さんに、わたしは笑みを向ける。
「いいんです。今日、実はお弁当を作って来たので……」
わたしは手に提げていた小ぶりのバスケットを彼の目の前に掲げて見せた。
すると、彼の目がみるみる見開かれ、同時に頬が赤みを帯びてくる。
「……そうか……ありがとう……」
スッと視線を逸らした彼は、照れ臭そうに小さくつぶやいた。
「ふふ。お口に合うといいんですけど……」
わたしたちは中庭の大きな木の下のベンチに並んで腰かけ、バスケットの中身を広げ始めた。
講義中のせいか、外に人の姿はほとんど見当たらない。
最近のわたしたちは、こうして度々ランチデートをしている。
いつもは学食やカフェに行くことが多いのだが、今日は季節外れの春日和だと天気予報で見て、ピクニックを思いついたのだった。