『よぉ……久しぶりだな』
いつもと変わらない声が耳に届く。
どこか自信たっぷりで、ちょっぴり威張っていて、でも温かさを秘めた声。
「うん」
『はぁ……やっと終わったぜ』
フーッと細く長く、創一は息を吐いた。
「うん……お疲れさま」
私は自分の顔がほころぶのを感じながら、短く相づちを打つ。
『お前……今からこっち、来れねぇか?』
「えっ?今から……?」
予期せぬ言葉に戸惑う私に、創一は続けてこうつぶやいた。
『どうしてもお前に……四葉に見せたいものがあるんだよ。来れねぇか?』
「え……あ、うん……分かった」
創一の真剣な声音に、私の口からは自然とそう言葉が漏れていた。
『悪ぃな。あったかくして来いよ……んじゃ、待ってる』
プツッと電話は一方的に切られ、私は少しの間、ボーッと窓の外を眺めると、ハッとして部屋の方を振り返った。
「……出かけるの?」
「きゃっ!」
私が振り向いたすぐ目の前には、菊原さんの意味深に微笑む姿があった。
「き、聞いてたんですか……」
「聞いていたわけじゃない。ただ……清田の声がうるさいから聞こえただけだ」
(う……確かに……)
言葉に詰まる私に、菊原さんは手を伸ばし、腕にそっと触れた後、顔を覗き込むようにして言う。
「……送ろうか?」
「えっ……あ、あの……?」
腕に触れた温もりと、突然近づいた距離。
そしてその言葉に、ドキンと胸が鳴る。
私の反応に、菊原さんは少し意地悪げに、耳元で甘くささやいた。
「別に取って食べるわけじゃない……そうして欲しいなら、そうするけど」
「き、菊原さんっ?」
驚いて固まる私から身体を離すと、菊原さんは背を向けて言った。
「アイツの所に行くんだろう。こんな夜中に一人で出歩くと言うのなら……止めないが」
その声は冷たかったが、手には車の鍵が握られている。
私はそんな彼の気遣いに心が温かくなるのを感じながら、その背中を追うのだった。