(創一……お弁当食べてくれたかな……)
寒空の中、今日も朝から現場へと出かけて行ったのだろう、創一のことを思い浮かべる。
コンペで最優秀賞を受賞した創一の作品が、いよいよ明日完成する。
私はここ最近、大学に行く前に彼のお弁当を作るのが日課になっていた。
私が朝、作って置いたお弁当を、私が出かけた後で起きてきた創一が持って現場に行く。
帰って来るのは深夜だったり、明け方になることも多いようだ。
私はいつだったか、帰宅した彼と久しぶりに顔を合わせた時、お弁当を届けようかと提案した。
けれど創一は「完成まで絶対に来るな」と言い張り、結局、朝にお弁当を置いておくことにしたのだった。
(少しでも、顔が見られるかなと思って言ったんだけど……やっぱり迷惑、だよね……)
ふと視線を窓の外に向けると……ひらり。
白い何かが窓に貼りつき、じんわりと溶けて水滴が伝って落ちた。
「あ……雪……」
空からは、ふわりふわりと、白い雪が降ってきている。
まるで天使が舞い降りてくるように。
「……本格的に降って来たね」
次の日の夜。
四つ葉荘のリビングで、窓の外に目を向けていた私の背後から、菊原さんがそっとささやいた。
「清田……大丈夫か?まあでも、今日で終わるらしいから、ちょうど良かったのかも知れないな」
フッと、細められた目が私を見つめる。
「はい……そうですね」
私が微笑みを返した時、手にしていた携帯が鳴った。
「……噂をすれば?」
クスッと菊原さんの色っぽい瞳が向けられ、顔が熱くなるのを感じながら携帯を開くと、そこには『創一』と表示されている。
(わっ!本当に創一……!)
「は、はいっ」
慌てて応答すると、電話の向こうでフッと笑う気配がした。