コンペへの作業に取りかかり始めて2週間。
カレンダーは今年最後の1枚、12月の面を表示し、街は少しずつ活気を見せている。
創一も私も、連日のように朝早くから夜遅くまで大学で、それぞれの作品作りに追われていた。
私たちが建築科のゼミ室を作業場として使っているので、たまに講義が終わると顔を合わせることはあったけれど、それもほんの一瞬のこと。
四つ葉荘でさえも、すれ違う毎日だった。
そんなある朝。
私は眠たい目をこすりながら、久しぶりにリビングでみんなと一緒に朝食を摂っていた。
「それにしても久しぶりだね。四葉ちゃんと朝ご飯食べるの」
「ホント、ホント!朝から四葉ちゃんの顔が見られて、今日はいいことありそうだなー♪」
翔ちゃんの言葉に、私の向かいに座っていた桜庭さんがニコニコと私の顔を覗き込む。
「ね。長門くん、だっけ?彼といい雰囲気って噂になってるらしいね」
「えっ?……えええっ!」
小声でそう言った桜庭さんの言葉に、私は動転して思わず大きな声を上げてしまった。
「四葉ちゃん?ど、どうしたの?」
「あ……す、すみません。何でもないです……」
和人さんの驚いた顔を見て、私は慌ててお茶を飲む。
(な、長門さんと……う、噂っ?)
思いがけないというか、全く身に覚えのない話に、チラリと桜庭さんの方を見ると、彼はニコッと笑って唇を動かした。
『ウ・ソ』
(ウソ?……な、なんだぁ。びっくりした……)
私は脱力してフウッとため息を吐き出すと、冗談のお返しにと、桜庭さんを少しだけ睨んだ。
「わっ!ご、ごめんね。ごめん!四葉ちゃんがあんまりカワイイからさ。そんな四葉ちゃんを独り占めしてる長門くん、が恨めしいって言うか……悔しいじゃんか」
桜庭さんは眉を寄せて申し訳なさそうに言い訳をする。
「こら、裕介。お前あまり四葉ちゃんにちょっかいかけるなよ」
顔の前に手を合わせて謝る桜庭さんに、和人さんのたしなめる声が届いた。
「……でも創ちゃん、気にしてるみたいだったよ。ふたりのこと」
私にだけ聞こえるように、桜庭さんは最後にそうつけ加えた。