「……四葉、寒くない?」
シンと静まり返った街並みを、栗巻さんとわたしは並んで歩いていく。
時計の針は23時を過ぎている。
「うん……大丈夫」
つい先ほど後にしたばかりの展示会。
それは有名な写真家の方が主催されたものだったそうで。
思っていたよりも老若男女、人の出入りが多く、わたしは少し空気に酔ってしまったのだ。
「四葉は……楽しかった?」
心配そうな彼の瞳がわたしを見下ろしていて、わたしは思わず立ち止まった。
「うん。楽しかった……栗巻さんの写真も、見られたから」
そう答えると、彼はフワッと微笑んで、提げていた紙袋から何かを取り出す。
「良かった……それじゃあ、これは四葉に」
「え?」
淡い月の光に映し出されたのは、写真が収められた額。
赤とオレンジ、それから深い青のコントラストが幻想的な夕暮れの写真。
それは、入賞した彼の作品だった。
タイトルは……『to 』
差し出されたそれにそっと触れると、彼は一瞬、グッと額を持つ手に力を込める。
「俺の写真を見て……キレイって言った四葉の顔が忘れられなくて……」
どこか遠くを見つめるように、栗巻さんは穏やかな表情を浮かべて、言葉を続ける。
その瞳は、少し寂しげで、でも温かさを潜めた、優しい色をしている。
「四葉のために撮った。学校の帰り道で見た空がキレイで……四葉に、見せてあげたくて」
「栗巻さん……」
「だから……タイトルは『四葉へ』」
わたしに向けられたやわらかな笑顔に胸がギュッと掴まれる。
うれしくて、何だか泣きそうになって、わたしは黙ってそれを受け取ると、胸に抱きしめた。
「……ありがとう」