「そういや、もうすぐクリスマスだねー」
四つ葉荘のいつもの食卓。
ふいに桜庭さんがそう口にした。
「そうだな……創一の方は準備進んでるのか?」
「んー。一昨日見かけたけど、急ピッチで進めてるらしいよ?」
和人さんと桜庭さんはこの場にいない清田さんを心配するように、彼の部屋の扉を見つめた。
「でも、すごいですよね。イルミネーションのコンテストで優勝しちゃうなんて」
翔ちゃんの感心した声に、わたしの隣でポツリ、小さなつぶやきが落とされる。
「……キヨなら当然」
全員の視線がその声の主に集まる。
栗巻さんは空になった食器を持って立ち上がると、そのまま何も言わずに背を向けてリビングを出て行ってしまった。
(栗巻さん……?)
素っ気ないのはいつものことなのに、今日は何となく声のトーンが違う。
彼の様子を気にしながら、わたしはお皿に残っている料理を口に運ぶのだった。
それから数日。
栗巻さんのことが気になりながらも、話しをする時間が取れないまま、わたしは大学の構内を歩いていた。
「あーっ!白樺さん!」
突然、背後から女性の大きな声に呼び止められ、わたしは驚いて立ち止まった。
「良かったぁー。ちょうど探してたのよー」
振り向くと案の定、写真科の講師、篠田先生の満面の笑顔が近づいて来る。
「……篠田先生……」
「ね、白樺さん。お願い聞いてくれない?」
「お願い……ですか?」
唐突な言葉に目を丸くするわたしに向かって篠田先生は手を合わせた。
「……という訳なのよ。ね?白樺さん、わたしを助けて!」
その後、お茶をご馳走するからと言う先生に半ば無理矢理連れられて、わたしたちは大学近くのカフェに来ていた。
「……写真科のクリスマスパーティー……ですか……」
話しによると、写真科の出展しているクリスマス展示会の会場で、24日の夜、ミニパーティーが開かれるのだそう。
そしてそこに、大方の予想の通り、栗巻さんは頑なに行かないと言い張っているらしい。
(やっぱり……篠田先生が出てくる時は大抵この手の話しなんだよなあ……)
「入賞者が出席しない訳にはいかないのよー。白樺さんが頼んでくれたら絶対、大丈夫だから!」
『絶対』と語気を強める先生の自信はどこから来るのだろう。
「……分かりました。話してみます」
わたしは結局、いつものように先生に押し切られ、頷いてしまうのだった。