「詩季ちゃん、走って!」
「きゃっ…亮太くんっ?」
わたしの手を握って、突然。
走り出した背中。
きゅっと絡んだ指先が、離さないように、離れないように。
ふたりを結んで、暗闇とネオンの雑踏にまぎれて消えて行く。
1年に一度の、特別な日。
この世界に入ってから、それまで当たり前だったことが当たり前でなくなった。
1日が24時間で。
祝日があって、誕生日があって。
クリスマスは恋人と。
お正月は家族と。
そんな普通の生活、すっかり忘れてしまった。
そう、だから今日が誕生日だったなんて。
誕生日にWaveのみんなとロケで遊園地に来るなんて。
全然、考えてもいなかった。
きっとこれは、神様からのプレゼント。
「…はい、到着」
「はぁ、はぁ…え…亮太くん、ここ…」
ちっとも息を切らさないで、足を止めた彼の視線の先。
空に咲かせる大輪のネオンの花。
「そ。ここならふたりになれるでしょ?」
「えっ…」
トクン、と胸の奥が音を立てる。
言葉に詰まったわたしの手を引いて、彼は歩き出した。