ピチチチチ…
小鳥のさえずる、早朝。
さわさわと風に揺れる草花の間をぬって、わたしは丘の上へとやって来た。
ふわりと髪をさらっていく風に香る、ラベンダー。
高く、青い空。
今日も、きっと暑い一日になる。
すうっと体いっぱいに空気を吸い込んで。
丘の上にぽつんと置かれたベンチに腰を下ろす。
手にしていた冊子を広げて、読み始めた、その時。
紫色の可憐な花に舞う白い蝶が、ひらひらとわたしの目の前を横切った。
「あ…」
自然と追った視線の先。
朝日を背に、ひとつのシルエットが浮かび上がった。
ゆっくりとこちらへやって来る、その影。
立ち上がったわたしの目に、優しい笑みが映った。
「…おはよう」
「…おはよう」
さあっと、風に乗って優しい香りがわたしたちを包み込む。
「どうして…ここにいたの…?」
不思議そうに問いかける彼に、わたしは微笑んだ。
「何となく…義人くんに会える気がして…」
「…うん?」
「…待ってたの」
わたしの言葉に、ふっと目を細めた彼の手が、わたしの頬へと伸びる。
「俺も…詩季ちゃんに…会える気がしてた…」
二歩分の距離を埋めるように、彼の腕が、わたしの腰を引き寄せて。
「…ん…」
やわらかな温もりが、やわらかな香りと風の中で、わたしの中に広がっていく。
白い蝶がひらひらと、わたしたちの周りを飛んで、空へ消えていった。
まるで、ふたりを祝福してくれるみたいに。
―End.
2012.9.1