「詩季ちゃん、これ、どうした?」
食事を終えてお皿を片づけていたわたしに、不意に背後から声がかけられて、振り向くと。
彼の手にはお皿ともうひとつ。
小さなグラスボトルに入れられた花が乗っていた。
「あ…今日、ちょうどおじさんのお店の前で見つけたんです。可愛らしいでしょ?」
淡い紫色をした小さな百合に似た花。
「そうだね。こういうものがあると…何だか癒されるな」
ふっと目を細めて、彼はそう言った。
仕事の疲れもあるのだろう。
でもそれをわたしには感じさせないように、きっと無意識でそうしている。
優しすぎる人。
「ふふ。じゃあ、さっさと片付けちゃいますね。崇生さんは向こうでゆっくりしててください」
「いや…俺も手伝うよ。詩季ちゃんのこと、待たせちゃったし」
「いいんです。崇生さんは、ちゃんと休んでてください。いいですね?」
いつもの彼の返事に、わたしは少しだけ強くそう言った。
「ははっ…怒られちゃったな。じゃあ、お言葉に甘えて」
少しおどけてそう言った彼に、心の中で思う。
もっと甘えてくれていいのに、と。
「…崇生さん?」
片付けを終えてリビングへ戻ると、ソファに座ったまま彼はうたた寝をしていた。
連日、遅くまで仕事をして、疲れているだろう。
守秘義務があるから、仕事のことを家で話すことはないし、仕事を持って帰ることもない。
思わず伸びた手が、彼の頭をそっと抱き寄せた。
「…詩季…ちゃん…?あ…ごめん、俺…」
浅い眠りから覚めたのか、崇生さんの頭が肩から離れようとする。
「…いいんです。今日は、わたしが甘やかしたい気分なんです。だから…甘えてください」