ちゅっ、という音と共に、頬に優しく触れた柔らかな感触。
「…驚いた?」
ふっと耳元でかすかに笑って、優しい腕に抱き寄せられる。
「一磨…もう…」
大好きな温もり。
石鹸のにおい。
同じシャンプーの香りに包まれて。
どこか張り詰めていた緊張感から解き放たれた気がした。
「詩季」
もう一度、そっと名前が呼ばれて、顔を上げると、今度は柔らかな温もりが唇に注がれる。
触れて、離れて、また触れて。
優しい口づけに、溶けてしまいそう。
「詩季…今夜は帰さなくても、いいよね…?」
「…え…」
ぼんやりと目を開けたわたしの背中が、優しくそっとソファに押し倒される。
「詩季を…離したくなくなった…離せそうにない…」
「んっ…」
首筋にかかる吐息と唇の感触に、思わず声が漏れてしまう。
すっとシャツに滑り込んだ手が肌をなぞって、かすかに体が熱くなった。
「あっ…一磨…」
胸元に落とされた紅い痕。
こぼれ落ちた声は、彼への返事の代わり。
もう、あなたしか見えないから。
惹きつけられるほどに鮮やかなブーゲンビリアの花のように。
―End.
2012.8.30