2

シャー…

熱い湯音が響きわたる浴室。

立ち上る湯気の中に、コンコン、と遠慮がちにノックの音が届いた。

「詩季…着替え、ここに置いておくから」


久しぶりのオフが重なったこの日は、朝からとても良い天気で。

立秋を迎えて少しだけ、風が心地よく感じられる。

そんな、夏も終盤に差し掛かった日。

わたしたちは久しぶりに海へドライブに出かけたのだった。

ところが。

帰り際、突然の豪雨に見舞われ、慌ててこの部屋に駆け込む間に、すっかり濡れ鼠と化してしまった。

この時期に多い、ゲリラ豪雨だ。


「…あ…」

シャワーを浴びて、彼が用意してくれた着替えに手を伸ばしたわたしは、思わず言葉を失った。

綺麗にアイロンのかけられたそれは、真っ白な綿のシャツ。

広げるとわたしの太ももまでの長さがある。

途端に、ドクンと心臓が音を立てた。

抱きしめられた時に感じる、ほのかな石鹸のにおい。

白いシャツの肌触り。

袖を通せば、まるで彼に包まれているみたいで。

どうしよう。

ドキドキが止まらない。

「…詩季、もう上がったの?早かった…」

カチャリとリビングの扉を開けると、紅茶の香りが漂ってくる。

マグカップをひとつ、手にした彼はそう言って、振り返った。

「っ…」

わたしの姿を捉えた彼の頬に赤みが差して、絶句したまま視線を逸らす。

お風呂上りの、しかも彼のシャツ1枚という自分の格好。

「あっ…か、一磨さんも…早く、入って…」

恥ずかしさを堪えきれなくなって、わたしはそう早口でまくし立てた。



* #

BACK/86/132
- ナノ -