シャー…
熱い湯音が響きわたる浴室。
立ち上る湯気の中に、コンコン、と遠慮がちにノックの音が届いた。
「詩季…着替え、ここに置いておくから」
久しぶりのオフが重なったこの日は、朝からとても良い天気で。
立秋を迎えて少しだけ、風が心地よく感じられる。
そんな、夏も終盤に差し掛かった日。
わたしたちは久しぶりに海へドライブに出かけたのだった。
ところが。
帰り際、突然の豪雨に見舞われ、慌ててこの部屋に駆け込む間に、すっかり濡れ鼠と化してしまった。
この時期に多い、ゲリラ豪雨だ。
「…あ…」
シャワーを浴びて、彼が用意してくれた着替えに手を伸ばしたわたしは、思わず言葉を失った。
綺麗にアイロンのかけられたそれは、真っ白な綿のシャツ。
広げるとわたしの太ももまでの長さがある。
途端に、ドクンと心臓が音を立てた。
抱きしめられた時に感じる、ほのかな石鹸のにおい。
白いシャツの肌触り。
袖を通せば、まるで彼に包まれているみたいで。
どうしよう。
ドキドキが止まらない。
「…詩季、もう上がったの?早かった…」
カチャリとリビングの扉を開けると、紅茶の香りが漂ってくる。
マグカップをひとつ、手にした彼はそう言って、振り返った。
「っ…」
わたしの姿を捉えた彼の頬に赤みが差して、絶句したまま視線を逸らす。
お風呂上りの、しかも彼のシャツ1枚という自分の格好。
「あっ…か、一磨さんも…早く、入って…」
恥ずかしさを堪えきれなくなって、わたしはそう早口でまくし立てた。