仕事の関係で贈られた花を見て、何となくわたしを思い浮かべたのだと流輝さんは言った。
(仕事中に、わたしのことを思い出してくれたんだ…)
キレイな花束ももちろん嬉しかった。
けれどそれ以上に、わたしを想ってくれたことが嬉しくて。
緩む頬を抑えられない。
「嬉しいか?」
「…ふふっ。はい!」
満面の笑顔で頷くわたしを、満足そうに見つめながら。
ポンポンと流輝さんは頭を撫でて、そのままゆっくりと髪に指を入れる。
「…今夜は、泊まって行くだろ?」
仕事が忙しい流輝さんと会ったのは、1週間ぶり。
明日はちょうど、休みだ。
「…はい」
コクリと小さく頷くと、彼は言った。
「まだお前を帰したくない…」
久しぶりに訪れた黒狐。
シャワーから上がると、流輝さんはアイリスの花束を花瓶に入れ替えてくれていた。
「優しい香りがしますね」
「詩季…こっちに来い」
ベッドの端に座った流輝さんに腰を抱き寄せられて。
まだ少し湿っぽい髪をタオルでくるんでくれる。
ふわりと優しいほのかな花の香りと、髪を撫でる手つきが心地よい。
「流輝さん、アイリスの花言葉って、何でしょうね…?」
わたしの問いかけに、ピクリと一瞬、手が止まって。
「…あなたを大切にします」
再び動き始めた手に身を委ねると、彼はそう答えた。
(あなたを大切にします…)
「流輝さん…」
ゆっくりと振り向くと、少し照れたように頬を染めて。
「詩季のこと、大切にするから…」
「…はい。わたしも流輝さんのこと、誰よりも大切にします」
いつも誰かを守って来た彼のこと。
人のことばかり考えて生きて来たこの人を。
「わたしが流輝さんのこと…幸せにします」