「馬鹿。お前が隙がありすぎんのが悪いんだ」
赤信号に、すうっと停まった車。
待ち切れないとでも言うように、流輝さんの手が伸びて来て、わたしの肩を抱き寄せると。
「流輝さ…んっ…」
突然、唇を奪われた。
驚いて彼の胸を叩こうとすると。
ギュッとわたしを抱く腕に力を込めて制される。
「…久しぶりに会えたってのに…他の男なんか見てんじゃねーよ…」
キスの合間に囁かれる声が、ちょっとだけ怒った色をしていて。
そしてほんの少しだけ、甘えるように求められるキス。
「…はぁっ」
長い口づけ、ようやく息をついた時、信号が青に変わって。
流輝さんは何事もなかったかのようにアクセルを踏んだ。
けれど、わたしの膝の上で繋がれた手は、とても温かくて。
冷え切ったわたしの手を温めるように。
絡められた指先がキュッと握りしめられたのだった。
「…あやめ?」
レストランで食事をした後。
流輝さんは少しドライブをして、小高い丘の上で車を停めた。
彼が後部座席から取り出した花束を受け取ると。
中には淡いブルーの可憐な花が顔を覗かせる。
「アイリスだ」