声を上げる間もなく、引かれた腕。
気がつくとわたしは皐月さんに抱きかかえられていて。
「ふふ。本物のお姫様抱っこ…ですね」
「さっ、皐月さん…お、下ろしてくださいっ」
「動くと落としてしまいますよ。映画でありますよね…花嫁を攫ってしまうという物語…」
あまりの恥ずかしさに、真っ赤になりながら。
彼の首に腕を回して、その肩に顔を埋める。
そんなわたしの耳元で、彼はこう囁いた。
「攫って行くのが新郎なら…誰も文句は言わないだろう?」
言うなり、皐月さんはわたしを抱えたまま走り出した。
そうして連れて来られたのは、ホテルのファシリティ。
初めて目にした時と少しも変わらず、美しく咲き誇る一面のアネモネ畑。
ただひとつ、変わったもの。
それは、まるで赤い絨毯を敷き詰めたかのように、赤一色に統一されている。
「今日の挙式は模擬、でしたけれど…」
わたしの左手を取って、言いかけた皐月さんは、スッとひざまづいた。
「詩季さん。この先も、どんなことがあっても…ずっと一緒にいよう」
「皐月さん…」
突然のことに言葉を失って、ただ見つめ返すわたしの目の前に。
彼は胸元のポケットから小さな箱を取り出した。
「…これを、受け取っていただけませんか?」
太陽の光を受けて、キラリと輝くそれが、輪郭を無くしていく。
「…は、い…」
途切れ途切れに頷くだけが、わたしの精一杯で。
左手の薬指に、そっと触れた彼の長い指が離れると。
「…ここの花は永遠に、あなただけのものです」
「皐月、さん…」
「愛している、詩季。永遠に、この花に誓う…」
「…わたしも永遠に…”あなたを愛しています”…」
―End.
2012.3.26
本編Happy End記念