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ステンドグラスからこぼれる光が、すうっと真っ直ぐに伸びている。

まるで道しるべのように。

静かな空間に、厳かに空気を震わせる、パイプオルガンの音色。

そして、神父の問いかけに、凛とした声が響き渡った。

”健やかなる時も、病める時も、愛し、敬い、慰め、助け、その命の限りかたく節操を守ることを誓いますか?”

”はい、誓います”


澄み渡った青空は、まるで水色の絵の具を塗ったようで。

降り注ぐ光は、少しだけ気の早い祝福のライスシャワー。

そびえ立つ白城の繊細な彫刻と、そこへ伸びる鮮やかな赤の絨毯。

そして、辺りを彩るのは…思い出の花。

その花言葉は、忘れもしない。

「”あなたを愛しています”」

「ふふ…覚えていてくださったんですね」

ポツリと小さくつぶやいたわたしに、隣にいた皐月さんが声をかけてくる。

「…もちろんですよ。忘れるわけがありません」

そう言って、視線を移した先には、真っ赤なアネモネの花々。

「それは良かった…私は美しい詩季さんを皆さんにお見せ出来て嬉しいですよ」

「皐月さんったら…でも、まさか…シンデレラ城で模擬挙式のモデルをするなんて…」

「ふふ。驚きましたか?」

「それは…誰でも驚きますよ」

今朝、行き先を告げられないままにたどり着いた場所。

それは、東京ディズニーランドだった。

ここの目玉とも言える、シンデレラ城。

そこでこの夏から、1日1組限定で、結婚式を行えるサービスが始まるらしい。

そのイメージ撮影のための模擬挙式に、モデルとしてわたしたちが推薦されたのだ。

「マーシャから話を聞いた時には驚きましたが、あなたの美しい姿を拝見出来ると思ったら…気がついた時には、了承していました」

まぶしそうに、愛おしそうに、わたしを見つめるまなざし。

そんなことを言われたら、頷くしかなくなってしまう。

彼はきっと、わたしの弱いところを全て知り尽くしてしまっていて。

わたしに拒否権など、初めからもうないのだ。

「…ふふ。今朝、言った通りですね」

「…え…?」

不意に、頬を包む手の温もりと、真剣なまなざしが間近に迫った。

「覚えていますか?…このまま、本当にあなたを攫ってしまおうかという気分になる、と…」



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