「…………」
「うん、バッチリね!とっても綺麗になったわよ、詩季」
満足気にそう言って、鏡に映る彼…いや、彼女は手を叩いた。
コン、コン。
マーシャの言葉に合わせるように、扉がノックされる音が響き。
「…詩季さん、入ってもよろしいでしょうか」
「あら、さっちゃんね。早くいらっしゃい。今、呼ぼうとしてたのよ」
ふたりのやり取りが扉越しに交わされて。
開いた扉の中に一歩、踏み入れた皐月さんの足が止まった。
「…詩季さん…」
わたしの名前をつぶやいて、そのまま言葉を失った彼。
「さ、皐月さん…」
恥ずかしさと戸惑いで、わたしは何と言って良いのか分からなかった。
なぜなら。
「うふふ。ふたりともとってもお似合いの新郎新婦ね♪せっかくだから、このまま本当に結婚しちゃいなさいよ。ねえ、さっちゃん?」
鏡の中で繋がる、皐月さんとわたしの視線。
そこにいるのは、スマートにタキシードを着こなす、彼の姿。
そして、純白のウエディングドレスに身を包む、わたし。
「…ふふ。マーシャの言う通りですね」
パタンと扉の閉まる音とともに、室内にふたり、残される。
「皐月…さん…?」
一歩、二歩、距離を埋める彼の足が、わたしのすぐ後ろで止まって。
「…詩季」
その声と瞳に、誘われるようにわたしは振り返った。
「美しい花嫁姿の詩季を前にして…今すぐ俺のものにしたいと…独占欲が顔を出す」
「皐…んんっ」
答える隙もなく、わたしの言葉は彼の中へと飲み込まれる。
深く熱い感触に、頭がくらくらして、思わずタキシードの胸元を掴んだ。
「…ふふ。詩季。体が熱くなってる」
「だって…」
体中の力が抜け落ちて、もたれかかるわたしを支えながら、皐月さんは少し意地悪な顔をした。
「続きは…また、今夜」