コン、コン。
静かな夜更けに、そっと響くノックの音。
キイと、小さく扉を軋ませて。
開いた扉の中へと入って来たのは。
「…ウィル…」
そう、言い終わる前に、わたしはその胸に強く抱き寄せられた。
月の明かりを映す、青い瞳が、切なげに揺れている。
「特別な日だと言うのに…キミと…」
低く押し出された声は、わたしの耳元でふわりと消えた。
「…あ…」
代わりに、肩に触れる、やわらかな温もり。
2月14日。
特別な日の意味は、恋人たちの日。
ふたりで過ごしたいと思っていたけれど。
実際には、公務が忙しくて、それどころではなかった。
でも。
「詩季…今夜は…離さない…」
「ウィル…ん…っ」
呼吸も奪うほどに、深く重なっていく唇。
それと同時にゆっくりと、視界が斜めになり。
その端に、今朝、彼から届けられた、パンジーの鉢植えが映った。
『わたしを思い出して』
大切な人へ、この花を贈るのが慣わしという国があるのだそう。
わたしを思い出して。
いつでもあなたを想っているから。